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LTO10の下位互換が無いことに関する技術的な情報とLTO技術の紹介ページを作成しました。(2025/10/23)

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BDT Media Automation社から発売されたOrion MC6の製品紹介のページを公開しました。(2025/10/3)

LTO-10LTO-9との下位互換が無い理由とLTO技術紹介

 

 

有限会社オプティカルエキスパート 角野

 

LTO10は、LTO9より前のLTOメディアに対する下位互換がありませんが、それに関する詳細な記事が、以下のWebページに7月末に掲載されました。

https://blocksandfiles.com/2025/07/29/tape-engineering-changes-from-lto-9-to-lto-10/

 

この記事では、LTO10に関する技術な内容を説明する前にLTO9のメディアに関する説明があります。また、LTO9のドライブとメディアの技術的な内容に関する詳細な説明が、IBM Research Europeから、Magnetic Tape Storage Technologyの表題の論文がACM Digital Libraryから今年の初めに公開されています。(https://dl.acm.org/doi/10.1145/3708997)

 

BlocksandFiles.comWebページの内容をIBM Research Europeの論文で説明されている内容で補足することで、このLTO10に関する説明書を作成しました。説明に使用している図は、Webページと論文からのものです。

 

LTO9までのテープ上のサーボバンドの配置とLTO10からの変更点

 

LTO-10の詳しい特性について説明する前に、LTO-9の動作原理を簡略化した形で概説し、LTO-10の開発背景を説明します。LTO-9のテープは、縦方向に8,960のデータトラックが4つのデータバンドに配置されており、これらのトラックとバンドは5つのサーボバンドによって分離され定義されています。これらのトラックとバンドは、テープリボン全体にわたり延びています。

 

 

 

サーボバンドは、LTO-9テープドライブのヘッドアセンブリが、テープがヘッドの下を高速で通過する際に、テープがドライブを通過する際に引きずられる影響やリボン品質のばらつきなどにより、わずかに位置がずれたり変形したりする可能性があるため、読み書きヘッドを正しいトラック上に位置合わせるために使用されます。ヘッドアセンブリは、データバンドの両側に位置する2つのサーボバンドを跨ぐようにテープ上を横方向に移動します。これらのサーボバンドから読み取った位置情報を使用して、データバンド内の正しいトラック上に読み書きヘッドを位置付けます。 テープは5本のサーボバンドで幅方向に4分割されており、サーボバンドにはテープの製造過程でサーボ用の信号が記録されています。この信号を使用したサーボ方式は、タイミングベースサーボと呼ばれています。   テープ上のデータバンドとサーボバンドの位置をテープが左右方向に走行している状態にしたのが下の図です。  

 

 

 

LTO10から、サーボバンドに記録されている信号の傾き角度が変更され、LTO9以前のテープとの互換性は無くなりました。

 

 

 

LTO9でのRead/Writeヘッドの動作

 

サーボトラックに挟まれたデータトラック内では、32トラック分のR/Wヘッドがデータの読み書きを行います。LTOでは、リニアサーペンタイン記録方式というテープの開始点から終了点間に、繰り返してデータを記録します。このデータを記録するトラックが含まれるデータバンドとサーボバンドの関係を紹介します。   以下の図は、データバンドと32トラック分のR/Wヘッドの位置関係を示したものです。  

 

 

 

 

 

R/Wヘッドには32個のReadWrite用のエレメントが搭載されています。全体として、読み書きヘッドは一度に32個の隣接するトラックを読み書きします。テープの長手方向に沿って連続するこの32個の隣接するトラックのグループを「ラップ」と呼びます。書き込みトラックは部分的に重なり合い、その書き込みトラックの中央に、より狭く明確に読み取れる読み取りトラックを残します。このトラックの重なり合いは、瓦屋根の瓦にちなんで「シングルング」と呼ばれ、記録後のデータを隙間なく配置することで、テープ幅方向にトラックを詰め込むことでテープの容量を増加させる方法です。但し、記録後にデータの記録場所を特定し、書き換えることは出来ません。(TapeSequential Deviceなので当然です。) この32本のトラックを同時にR/Wする仕様は、LTO7からで、それ以前は16本でした。同時に読み書きするトラック数は、データ転送レートに反映され、LTO6では160MB/secでしたが、LTO7からは、300MB/secになっています。

 

新しいテープまたは新しいデータバンドへの書き込みが開始されると、最初のラップは外側のサーボバンドの隣にある最も右側のバンドに沿って進みます。テープの端まで進んだ後、読み書きヘッドはデータバンドの反対側にある32トラックの上の位置に移動します。その後、テープは巻き戻され、リボンがヘッドの下を逆方向に進むように送られます。

 

テープの端に達し、このトラックのラップが書き込まれると、読み書きヘッドは再び移動し、最初に書き込まれたラップの隣のラップの上に配置され、3番目のラップが書き込まれます。このプロセスは、各ラップがデータバンド内の前のラップの中に配置される形で進行し、最終的にデータバンドの中央に最終の巻きが書き込まれます。このラップ配置は、蛇が頭部をコイルの中央に配置して自身を巻き上げる様子に似ているため、リニアサーペンタイン記録(線形蛇行記録)と呼ばれています。データバンドの最での最初の記録は、サーボトラックに沿った位置(下の図の記録開始点)から実行されます。終了するとテープ走行の方向が下の図では上下方向になり、開始位置はデータバンドの両端にあるサーボトラックに沿って開始されます。3番目のトラックは、最初のトラックの隣になりますが、トラック間は上書きされます

 

 

 

 

 

LTO9からLTO10へのデータ容量の増加

 

ここからの説明は、BlockandFiles.comWebページに記載されているIBM担当者にインタビューした内容です。

 

テープの記録容量を増加させる方法は3つあります:テープの幅や長さを増やして表面積を拡大する、トラック幅を狭くする、およびビット領域のサイズを縮小する。I/Oの性能向上には、テープが読み書きヘッドを通過する速度を向上させることや、読み書きヘッドの要素数を増加させる方法があります。

 

 

LTO-10

 

LTO10は、記録可能なデータ容量がLTO918TBから30TBに増えていますが、データ転送レートは、400MB/secで同じです。LTO10は、LTO9との下位互換が無いので、LTO8を読み書き出来たLTO9とは異なり、LTO9のメディアは使用出来ません。なぜ、LTOドライブの開発元のIBMは、下位互換を無視したのでしょうか。

LTO-10形式はLTO-9に比べて容量が向上しましたが、I/O速度はネイティブデータレート400 MBpsのまま変更されませんでした。LTO-10ドライブはLTO-9テープの読み書きができませんでしたが、LTO-9は前世代のLTO-8と下位互換性がありました。なぜLTOテープドライブの開発元であるIBMはこのような選択をしたのでしょうか?

 

IBM担当者からは、テープに読み書き出来るデータの転送レートは、テープの物理的な限界とテープの材質で制限される。現在のテープは、6ミクロン程度(5.2ミクロン)で、テープの走行速度は最大で10m/secですが、この薄さでは、これ以上の走行速度にすると、テープ自体がちぎれたり、破損する可能性があります。

 

LTO9LTO10のテープの長手方向の記録密度は、ほぼ同じなので、データ容量の増加は、テープの幅方向の記録トラック数を大幅に増加することで実現されています。LTO9では、2,280本のトラックが含まれるデータバンドが4本あり、トータルで、8,960本でした。LTO10では、トータルで15,104本あり、トラック数の増加分で30TBのデータ容量を実現しています。

 

それでは、同時に使用するR/Wエレメントの数を増やして、データ転送レートを向上することが可能ではないかと、IBM担当者からはLTO10ドライブのASIC/CPUは、64個のR/Wエレメントを処理し、1000MB/secのデータ転送レートを実現出来るように設計されているので、次の開発目標は、64個のR/Wエレメントを実装したヘッドアッセンブリーです。

 

但し、64個を同時に使用するためには、電子回路の接続として以下の数が必要になります。

1トラックに対して、2個のReadヘッドと1個のWriteヘッドで、合計3

32トラックでは、96個のヘッドを使用しているので、電気信号を伝えるためのケーブルは、倍の192本が必要。

64トラックでは、合計で382(実際はフレキシブル基盤なので線材ではない。)

 

以下がLTO10のヘッド部分の写真です。

 

 

   

新しいサーボ信号を使用して、ヘッドのトラック方向への追従性能を向上させ、さらにデータトラックに対するR/Wヘッド一をヘッドの傾き角度を変更する制御で、テープの走行時のテープ幅方向へのばらつきや物理的な位置の誤差を修正することが、LTO10のドライブから実現出来ました。結果として、LTO9でのメディア単位のキャリブレーションが不要になりました。